本棚って壁紙だ!

主に本の紹介、読書感想文、時には漫画、映画などエンタメ全般について綴る

七瀬ふたたび 筒井康隆

筒井康隆
ISBN9784101171074
新潮社

 もう30年以上前に読んだ本ですが、懐かしく好きな作品ですので書いてみます。

 七瀬ふたたびは「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」と続く、七瀬三部作と呼ばれる中の一つで、NHKなどで何度もドラマ化されています。筒井康隆はドタバタ、スラップスティック、後年の実験的・前衛的な作品など幅広い作風で活躍した日本を代表するSF作家の一人ですが、若い人には「時をかける少女」等のジュブナイルのイメージが強いかもしれません。

 主人公の火田七瀬はテレパスという能力を持っています。これは人の心を読める能力なのですが七瀬はこの能力をひた隠しながらひっそりと生きています。「家族八景」はお手伝いさんとして仕える家を転々とする七瀬が、表面的には幸せそうに見える普通の家族のどろどろとした心理を知ってしまったり、美貌を持つ七瀬へ向けられる男のエロティックな想像などと戦いならが生きていく話です。

 特に覚えているのが、(以下薄字部分一部ネタバレ)

 

 

 

火葬場で今正に火葬されようとしている老婆が棺桶の中で蘇生し、その意識が七瀬に伝わってしまう場面です。蘇生した事を知るのは七瀬だけですが、気づいた理由を説明できないしテレパスを疑われるかもしれない。だが放っておけば人が死ぬ事になる。未だ若かった自分には衝撃的な内容でした。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 
 一転して「七瀬ふたたび」ではSFチックに物語が展開していきます。自分と同じ能力を持つ子供ノリオと出会い、そして夜の街で働いていた七瀬はテレキネシス(念じて物体を動かす)能力をもつ黒人のバーテン、ヘンリーと出会います。このヘンリーは七瀬の命令がないとテレキネシスを使う事が出来ません。

 その後様々な能力者と出会って時には行動を共にし、時には敵対します。北海道の別荘で隠れる様に暮らしていた七瀬は、生活資金を調達するために訪れたカジノで、超能力者を憎悪し抹殺しようとする組織に見つかってしまいます。そして戦いが始まり...。という感じです。

 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 
 「エディプスの恋人」は最終的には壮大なスケールの話です。
 少年に向かって飛んできた野球の硬球が割れる所から物語は始まります。この時七瀬は高校の教務課で事務仕事をしていました。彼の通常とは異なる意識を以前から感じ取っていた七瀬は彼の事を調べずにはいられなくなります。

エディプスの恋人 (新潮文庫)

エディプスの恋人 (新潮文庫)

 

 
 私の住む地方都市で今書店に行っても、筒井康隆の作品はこの七瀬三部作と比較的最近の物しか置いていません。自分には後期の実験的な作品は難し過ぎるのですが、初期の頃のドタバタパロディ作品はとても面白く、小説で涙を流して笑ったのは筒井康隆の作品だけです。


 先ずはこの三部作もお薦めですが、若い人はあまり読んでいないと思うので、テイストの違う「メタモルフォセス群島」とか「にぎやかな未来」「農協月へ行く」「日本列島七曲り」など初期の短編集を探して読んでみてください。中毒になってしまうかもしれませんよ。