本棚って壁紙だ!

主に本の紹介、読書感想文、時には漫画、映画などエンタメ全般について綴る

火車 宮部みゆき

宮部みゆき
ISBN9784101369181
新潮社

 休職中の刑事が、遠縁の男性に頼まれ彼の婚約者を捜すことになった。婚約者は自らの足取りを消して失踪していたが、婚約者の知り合いの話などから、彼女が実は全くの別人だと判明する。

 模倣犯もそうですが、宮部作品は多少長くとも宮部さんの筆力でどんどん読み進めていけます。主人公(婚約者)は最後まで登場せず、刑事が苦労して徐々に彼女の生い立ち、どのような人生を送ってきたかを調べ上げて行くのですが、カード、キャッシング、借金、ローン、サラ金、破産などとからめ彼女の過去が少しずつ明らかになっていくと、こんなことが有っていいのか、出来るのか、と驚きや恐ろしさと共に自分ももしかしたら知らないうちに...と心配になるくらいです。

 現代の個人情報保護やネット社会だと刑事の捜査方法が異なるかもしれないですね。これは足で稼ぐ昔風の社会派ミステリーといった所でしょうか。書かれた時点では多分、新鮮な社会問題であったカード破産などを取り入れ、現代社会の裏というか、普通の人ではあまり関係ない、でももしかしたら誰でも知らない間に足を踏み入れてしまうかもしれない問題を扱っています。

 この「火車」は私が宮部作品で一番最初に読んだ物です。だから思い入れも強いのかもしれませんが、実は今でもこの火車が宮部作品の中で最高傑作だと思っています。宮部さんといえば、この火車模倣犯をお薦めする人が多いのではないでしょうか。(最近のは読んでないのでちょっと解らないのですが)

 あっさりしたラストですが、美しく華奢な彼女は今後どうなるのでしょうか。彼女が恐ろしい犯罪を犯してまでこうせざるを得なかった背景、ラストに辿り着くまでに彼女の人生や背負ってきた事柄を知り、彼女に多少なりとも感情移入せざるを得ません。

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

 

 
 ラスト後の展開は想像に頼るしかないのですが、彼女の声というか話を、何を語るのかを聞いてみたいですね。