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主に本の紹介、読書感想文、時には漫画、映画などエンタメ全般について綴る

きみはいい子 中脇初枝

中脇初枝
ISBN9784591129388
ポプラ社

 五つの短編から構成されていますが、物語の舞台は桜ヶ丘という同じ場所で(元は烏ヶ谷という、新幹線を通すために造成されたらしい土地)、各短編が登場人物や建物や公園などを介して少しずつ繋がっています。ある物語では主役の子が、別の物語でもちらっと出てきたりといった具合に各エピソード毎にちらっと関連を持たせる形式の短編集です。

 「きみはいい子」というタイトルからして、子どもの虐待を扱った話かと思っていたら、単にそれだけの話ではありませんでした。育児放棄されている子どもの話、自分の子供にイライラし叩いてしまう母親目線での話、子どもの友達が虐待をうけている話、孤独な老人と障碍を持つ子供の話、自分を虐待した母を介護する話と、虐待を絡めて様々な目線からの物語になっています。

 自分は虐待されたことはなく、もちろん怒られたり叩かれたりしたことはありますが、裕福ではないものの一応は幸せに育ててもらいました。その為かどうか分かりませんが、実はこの本は、本の帯にある様にそれ程深く心を震わせるというものではありませんでした。いや、でも心に迫ってくる話も幾つかあり沈痛で胸を締め付けられる様な読後感となりました。ただ悲しい話の中にも救いはありますね。

 現代社会は子育てしている人に優しくありません。公共の場所で泣いたらすぐうるさいだの躾がなってないだの何だのと迷惑な顔をされます。迷惑がる人だって小さい頃は泣いたり騒いだりしたくせにね。核家族で母親は相談する相手もいず、自分一人で悩みを抱えたり、上手く育てられない自分を責めたりして、それがネグレクトや虐待に繋がってしまうのでしょうか。よく虐待は連鎖すると言いますが、自分が誰かに愛され必要とされている、そういう思いがあれば虐待には繋がらないのでしょうか。

 子どもがいる人なら言うことを聞かない子どもにイライラする気持ちは分かると思います。一瞬もわっとした感情が湧き上がることもあるのだと思います。実際手は出さなくとも、少し間違えれば自分も子どもにそのイライラをぶつけてしまうかもしれない。そういう綺麗事でない感情がリアルに描かれているのだと感じます。

 昨今、自分が遊びたいために子をないがしろにした若い母親のニュースや、児童相談所の訪問には嘘をついて最終的に子どもを死なせてしまう親のニュースをよく聞きます。これは本当に切なくやるせない。世の中に親から当たり前に愛情を注いでもらえない子どもがいることに、とても嘆かわしい気持ちになります。

 各短編の内容をかいつまんでまとめてみます。多少ネタバレしています。

 

きみはいい子 (一般書)

きみはいい子 (一般書)

 

 





・サンタさんの来ない家
 毎日給食をおかわりする子がいる。給食費も払って貰えず、家で食事を食べさせて貰えないのだ。新米教師のぼくはそれに気づいてあげられない。

・べっぴんさん
 どうしても自分の子どもにイライラし、叩いてしまう母親。彼女は過去に自分が虐待されていた。その時と同じ反応を見せる自分の子ども。でも近所のママ友が気づいて自分を優しく包んでくれた。虐待の連鎖は止まりそうだ。

・うそつき
 虐待されているらしい子どもと友達になった自分の息子。息子は友達が話す虐待されているであろう話を嘘だと思っている。二人は別々の中学校に通うため別れてしまうが、今の幸せに遊んだ記憶が将来何かあった時に息子を支えてくれるだろう。

・こんちには、さようなら
 年老いたおばあさんと障碍がある子どもの交流。
 戦争や空襲を乗り越え長生きしたおばあさんは過去の記憶も確かでなくなってきている。いつも挨拶をしてくれる子どもがいて、その子が鍵をなくしたことから家に上げてあずかる。

 この話に「仕合わせ」という言葉が出来てきます。
 「仕合わせ」と「幸せ」の違いを調べました。漢字が入ってきた時に日本語の「しあわせ」の概念に漢字を当てたのが「仕合わせ」だそうです。「仕合わせ」というのは幸福や幸いという意味も含むけれど、良い悪い両方含むめぐり合わせ、なりゆき、ことの次第といった、良いことも悪いことも含む言葉だったそうです。その中でhappyという意味のものが「幸せ」だそうですが、「仕合わせ」も「幸せ」を含むので、どちらでも構わないとのことです。

・うばすて山
 自分を虐待していた母親が呆けた。姉妹だが妹は可愛がられ自分だけがいつも怒られていた為に母を恨んでいる。普段は妹が面倒を見ていたが数日間だけ預かることになった。

 これらの話を親にかまってもらえなかったり、暴力をうけたり、無視されたり、そういう経験のある人が読んだらどうでしょう。もしかしたら涙が止まらないのかもしれません。嫌な記憶が蘇ってしまうのかもしれません。自分はただそんな親に育てられなくてよかったと感謝するだけです。

 でもそんな感想を持つために書かれたわけではないでしょう。虐待について知って考えてもらい虐待をなくしたいという気持ちから書かれた本だと思います。

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