ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 辻村深月
辻村深月
ISBN9784062772242
講談社
大分前から積ん読してあった本ですがようやく手に取りました。辻村深月さんの作品は「鍵のない夢を見る」以来です。その時はタイトルは良いけどそれ程までとは思わなかったのですが、この作品は私好みでした。
本の構成は第一章、第二章と大きく分かれています。
第一章は主人公の一人である「みずほ」が、過去の友人や知人を訪ね、母親を殺すという事件(裏表紙に書いてあるからネタバレok部分)を起こした友人の「チエミ」を探すため、彼女の事を尋ねて回る構成となっています。
その中では地方都市での女性の生活や、仕事に希望を見出せず結婚だけが自分を引き上げてくれるといった思想、また東京へ出た友人との確執などが描かれ、女性同士、女性特有の会話を中心に話が進んでいきます。話が進む中でチエミが事件を起こした理由、みずほがチエミを探している理由などが徐々にぼんやりと明かされてきます。
第二章はというと...、よくあるパターンで今度は「チエミ」側から話が語られるのですが(所謂謎解きの部分です)、あまり内容を書くと未読の方が読んだ時に面白くなくなってしまうのでこれくらいにしておきます。
とにかく色々な伏線やテーマが複雑に絡んでいるのを感じました。最終的に大きくは母と娘の関係性、プラス女同士の友情、とはいっても男同士のそれとは違う妬み嫉み憐れみが伴う複雑な感情なのですが、その話なのかなと感じています。
絡み合うテーマとして挙げてみると、
・田舎に残る者と都会に出て行く者の意識の差
・女同士の友情と虚勢
・仲間内でのヒエラルキー
・母と娘
・素直で無邪気な人と打算的で計算できる人
・異性にモテる側とモテない側
・普通とか普通じゃないとか
この辺りが、みずほとチエミの関係性や、また二人とその友人を通しての関係性として語られ、男はこういう事は普段あまり意識して生きてないな~といった女性特有の面倒くささを教えてくれますね。
また第一章の後半で、みずほがチエミの事を「昔からの、一番の親友なんです。」と思わず口走ってしまう箇所があるのですが、ちょっとじーんと来てしまった。付き合うのが面倒になってしばらく関係を切っていた友人なのですが、あることがきっかけで子どもの頃に彼女とした約束を思い出し彼女を探し始めます。もう付き合いのない古い友人の事を自分は何故あちこち聞いて回っているのだろうと、その答えが心の奥底ではチエミはとても大事な存在だったからなのだなと思いました。
タイトルの意味はやがて分かります。自分は数秒間うっと来て軽く嗚咽が漏れてしまうという感じでした。伏線はありますがそうだったのかと。
男性が自分の知識の中の女性像を意識しながら読んでも面白いですが、実際に女性が読んだら多分より深く感情移入できると思うし、女性ならではのまた別の思いが湧き上がるに違いないと思います。女性は男性より遙かに色々なことに思いを巡らせながら生きている様に感じるからですが、男性作家には書けそうもない女性の描写ですね。とにかく平易な文章で読みやすく、読み始めたら止められない一冊でした。
以降、未読の人はネタバレしてますので絶対に絶対に読まないで下さい。
大したことは書いてないよ~。自分が読む時に面白くなくなっちゃうよ~。
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チエミはモテるタイプではなかった。でも唯一自分が好きになって付き合うことが出来た(と思った)相手の子を妊娠した。妊娠を母に相談し一緒に喜んでもらいたかった、でも母親は反対し中絶しろと言う。
そこで包丁を持ってもみ合いになり不幸な事件が起きてしまうのですが、結局最後に、その妊娠は勘違いだったと明かされ、何のために取り返しがつかないことをしてしまったのだろう、母親を殺してしまったのだろうととてもやるせないような空しく切ない気持ちになりました。
母親が最後に通帳の在処を伝えて、(犯人にされない様に)逃げなさいと、産んでもいいから逃げなさいという部分も切ないですね~。
そして暗証番号です。娘に誕生日を番号にしてはダメよと教えておいて、自分は娘の誕生日を暗証番号に設定している。タイトルはどういう意味かな~と思ってはいたのですが、それがこのタイトルだったなんて! その謎が明かされた時にはぐっと来てちょっと涙が出ました。
赤ちゃんポストの話も最初は何の関係があるのかなと思っていましたが、これ重要だったんですね。チエミが何処にいるのか探す決め手になってました。
そして女性は本当に仲の良い友人同士でもこんな感じなの?って聞きたいです。これでは生きてて疲れてしまうのではないかなと思うのですが、多分すごくリアルに女性同士の関係が描写されているのでしょうね。こういう女性の面倒な部分が書けるのって凄いですよね。